2011年9月3日土曜日

資産家の資産保護はリヒテンシュタインへの流れ


匿名の海外銀行口座の歴史は、銀行そのものの歴史とほぼ同じくらい古い。ヨーロッパでは、脱税者を摘発するための圧力は強まっているが、まだアジアの国からなじみ深いヨーロッパの国まで、多くの選択肢が残っている。

ベルリン--大きなうねりは1993年にドイツの連邦政府の憲法裁判所によって巻き起こされた。その2年弱前 に、カールスルーエの裁判官は、租税回避のために資本所得を申告していない投資家を許容しないようドイツ政府に命じた。それを受け、当時のドイツの連立政 権は、スイス、オーストリア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、およびモナコ経由で支払われる、申告されていないドイツ資金からの所得に対して、 30-35%の税金を導入した。
「この現象自体はとりたてて新しいものではない。外国の口座に資金を保有するファミリーはいつでも存在しているものだ」とペータールードマン弁護士兼税務アドバイザーは言う。
多額の資産を海外に預けることは、工業化の初期以来、よく行われてきた。コンサルティング会社エコヴィスのパートナー、ルードマンは、海外に送金する理由とは、伝統的に、「通貨改革、政変、予想できない法制度の変更、その他の一般的な恐怖」であったと説明する。
スイスの社会民主党所属の連邦議員ウィリーリチャードは、以前、銀行秘密とは「尼僧のようにアンタッチャブル」だと表現した。 1990年代、銀行は、例えば「ルクセンブルク、あなたのお金のセカンドハウス」というようなスローガンを掲げ、新規顧客へオープンに銀行制度の宣伝を始 めた。これにより獲得した預金は、莫大なものだった。
スイスの口座だけで、申告されていないドイツ資金はおよそ1310億ユーロあると推計されている。経営コンサルタント会社である、BBWマーケティ ング・ドクター・ヴォッセン・アンド・パートナー社は、2008年には、ルクセンブルクに800億ユーロ、オーストリアに700億ユーロが存在し、スイス では1750億近くに達していたと見積もっている。
先進工業国で金融規制が強化され、テロへの資金調達に対する関心が高まるにつれ、タックスヘイブンは、より強い圧力を受けるようになり、各国の蔵相が脱税の世界的な取り締まりに着手した後には、銀行業務の秘密保持も危険に晒されるようになった。
脱税との戦いに協力しない国をブラックリストに載せるとの経済協力開発機構(OECD)による脅迫を受け、リヒテンシュタイン、アンドラ、スイス、 オーストリア、ルクセンブルク、ベルギー、およびモナコは、2009年にそれらを自国の銀行業務の厳しい秘密法制を緩和する準備ができていると宣言した。
しかし、このことは、必然的に次の波を揺り起こした。つまり、より遠方の、そして、不透明な場所、ケイマン、クック諸島、香港またはシンガポールの口座である。「ボタンを押すと、スイスの資金はシンガポールか香港に移動するのだ。」とあるドイツ政府高官は言う。
2010年のはじめの8カ月だけで、620億スイスフランがスイスからアジアに移動したと考えられている。シンガポールには、投資家の誘引競争をし ている数十もの商業銀行や投資銀行が所在している。クレディスイスやUBSなどのスイスの銀行はシンガポールに支店を持っており、さらに数百もの小規模金 融機関がある。そして、シンガポールの他を寄せ付けないセールスポイントは、キャピタルゲイン課税が0%であることだ。ドイツとの二重課税協定があるが、 それは申告資本に関するものだけである。
香港企業と資本所得からの配当には、税金がかからない。ケイマン諸島はプロが非常に好む地域である。会社の設立は比較的簡単であり、そして、ヘッジ ファンド業界のかなりの割合はケイマンに所在している。銀行業務の秘密保持の法制度が非常に厳しく、違反した者は15年の懲役となる。
現在のところ、先進国の財政当局は、こうした税金の楽園にある脱税資金に対して、ほとんどコントロールすることができない。国家間の協定が全くな く、銀行はいかなる情報をも捜査官に対して提供する必要はないからだ。口座と預金の秘密は守られており、投資家は匿名が保たれている。
それでも、脱税に対する欧州のますます強まる圧力の点から見て、検挙されるという危険は、得られる利益よりも増大しているようにも思える。「租税上 の利益から、資本を海外に逃がすのは、実際は頭が悪い場合もある。」と、ルードマンは言う。「1年あたり、せいぜい1,000ユーロの節税のために、10 万ユーロの資金が動かせなくなり、車や家や他の物を買えなくなるのだ。」
2011年5月現在、マネーロンダリング及び脱税防止法による起訴を避けるためには、脱税したドイツ人は、タックスヘイブンに不法に保持する資金を 完全に申告する必要がある。 「法の目的とするところは、正直な税務申告の奨励と、それと平行した脱税への罰則の強化だ。」と、フランクフルトの監査と税務アドバイザーであるオリ バー・ビエルナットは説明する。
「隠匿資金を申告する大きな利点は、資金を合法化すれば、合法的なすべての節税手段を利用できるということだ」と、申告していない資金の合法化を専 門に扱う、バイエルン州ハルフィング市の税務アドバイザー、アントン・ラドルフ・ゴッゼンバーガーは言う。「最近扱った、隠匿資金を申告した顧客の事例で は、むしろ財政当局から還付を受けたものもある。」。ゴッゼンバーガーは、平均的に、脱税資金を申告しても、資金の80%から70%は維持可能であると見 積もっている。
現在の、隠匿資金を申告するという、ドイツの脱税者による継続的な流れは、正しく振る舞おうという希望によるものというよりは、そうしないと捜査に よって詳細が暴かれ、逮捕が公にされることに対する恐れによるものである。ドイツ郵政の元ボスであるクラウス・ズムウインケルは、実際に逮捕された。
2010年には、2万6392人が隠匿資金をドイツ当局に申告し、ドイツ政府は、国庫に約20億ユーロを得た。
スイスとの新しい税金協定は脱税者への圧力を増加させるが、タックスヘイブンは干上がらないだろう。かえって、ルードマンは、「協定は実際には、リヒテンシュタイン(プライベートバンク)に とって有利に働くだろう。」と予想する。タックスヘイブンは、税当局から資金を隠す機能だけを投資家に提供しているわけではなく、債権者、相続人、前夫や 前妻から隠すための機能もあるからである。ルードマンは、こうしたタックスヘイブンの金融機関は、資金を隠したい理由がいかなる物であっても、本当に誰で も利用することができると言う。

人気ブログランキングはこちら



0 件のコメント:

コメントを投稿